バラを召しませ ランララン(4) (平成8年5月のNHKラジオでのお話から)
4.育種の苦労
バラという植物は歴史が古くて、紀元前からバラという名前はあるし、ギリシャ、
ローマ時代からバラは美しいとされてきました。だからその中で変わったものが出れば
非常に価値があるものだと、思われてきたわけで、新しい品種を作っていくということは
なかなか大変なわけです。いろいろな種類の花があるけれどもギリシャ、ローマ時代から
品種を選んで作られ、ずっと来たという植物はすくないのではないかと思います。
ではどうして新しいバラができ上がっていくかと言うと、母になるバラのおしべを取って
めしべだけにしておいて、他の花の花粉をつけてやると、例えば白いバラのおしべを取って、
めしべだけにしておいて、赤いバラの花粉をかける。するとそこに赤でもない白でもない
桃色とか薄ピンクとかがでてくるわけです。しかしこれは文学的にいえば
「不思議な天の女神の力が及んで、たくさんの子どもの中にすばらしいものをつ
くってくれる」ということで、なかなかこちらが思うようにはいきません。
たくさんのいろの子どもができたらば、その中から選んで、例えば500本選んで
接木をして増やして、3〜4年してから、それを見て木の生育とか葉の美しさ
病気に弱いとか強いとかそういったことを考えながら、いかに良い品種でも弱くて育た
ないのは困りますから、それはやめます。早くて5年普通は10年くらいかけないと、
本当によいものはできないし、外国に出しても負けないものが選べないわけです。
私たちがやってきたのは50,000くらいの種を蒔きまして10年後には49,000の品種は捨
てられてしまうのです。結局世の中に出るようになるには10年の歳月がかかるのです。
しかしドイツやフランスでは私たちが50,000の種を蒔くところを500,000、1,000,000
という種を蒔きます。これは多く蒔いたほうがいいのが出る率が高いのですが、
設備が非常にかかります。私たちは50,000、60,000ぐらいで抑えてそれを科学的に
色素分析や香料分析をして遺伝的な流れをつかんでいくという方法でやっています。
最近は 切りバラの品種も商業用になるので、考えています。「パレオ」というオレンジ
色のバラを出しましたのは日本はもちろんですが、外国でも非常に喜ばれています。
これは 蛍光灯に良いのです。
同じように「レーザー」という桃色ピンクのも蛍光灯に非常によいのですが、「パレオ」
のほうが丈夫だし、他にこのオレンジ黄色はないので、外国でも日本でも大いに栽培され、
販売されているのです。今後も切り花の品種というのは大いに改良されなければいけ
ないものがあります。
よく「空色のコバルトブルーのバラはどうしたんだ」という話がありますが、
これは簡単なものではないのです。他のペチュニアなどはコバルトブルーの色素
(デルフリジンという色素)が入るようにバイオテクノロジーで研究しているところもあ
ります。一時はかなりのところまで追い詰めたという話ですが、なかなかむずかしいので、
私たちの会社の研究室ではやっておりません。
研究というのは 非常に勉強も必要ですが、実験を伴う奥の深いものでありますので、
私は今研究室の顧問という立場ですけれど、自分で個人的に仕事は捨てないで私の小さな
庭に外国から原種、野バラのようなものを集めてやっております。オリジナリティという
独創的な考え方が幅広く寒さに強いバラ、もっと丈夫なバラ、木になるバラなど考えて
毎回やっておりますが、他ではできない仕事をいろいろ個人的にこれからやっていこ
うかなぁと思っています。
83歳の今でも、バラの仕事を全くやめるという気持ちはありません。
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